大型トラックを軸に考える気候変動と物流のこれから

白い大型トラックが舗装道路を走っている。青空と雲。

「今日も配送は止まらない」
長年、物流はその前提で回ってきました。しかし今、世界各地で異常気象が頻発し、大雪で高速道路が封鎖され、洪水で拠点が浸水し、猛暑でドライバーが倒れています。

もはや気候変動は環境問題ではなく、物流オペレーションの前提条件そのものを変える経営課題です。 環境リスクによる物流損失は2026年までに年間1,200億ドルに達すると予測され、今世紀半ばには最大25兆ドルの純損失をもたらす可能性が指摘されています。

本記事では、異常気象下で「止まる」現場の実態から、大型トラックに求められる新しい役割まで、技術論ではなく現場で起きている変化を整理します。

最後まで読んでいただくことで、従来の「走り続ける」物流から「守りながら運ぶ」物流への転換が理解でき、自社の判断体制を見直すヒントが得られます。止まる勇気が、これからの物流を守ります。

現場で起きていること:大雪・洪水・猛暑で輸送が止まる

トラックが止まる理由は単純です。道路が使えないか、安全が確保できないからです。

積雪が除雪を上回れば走れません。冠水した道路は路面状況が見えず危険です。気温が40度を超えれば、アスファルトが熱を持ち、車内の温度管理も限界に達します。

止まった瞬間に連鎖が始まります。配送計画は崩壊し、現場の判断負荷は跳ね上がります。顧客からの問い合わせが殺到し、「なんとか届けろ」というプレッシャーが無理な運行を生み出します。

2021年7月にはベルギー、オランダ、ドイツの洪水により配送遅延が26〜32%増加しました。北米では豪雪で高速道路が封鎖され、数百台が立ち往生しました。アジアでは猛暑によるドライバーの体調不良で運行体制そのものの維持にも影響が出てきています。現象は違いますが、困っていることは同じです。道路が使えず、トラックが動けず、物流が止まります。

それが「特別な出来事」ではなくなっている

以前なら「想定外」「異例」で片づけられていました。今は「どこかで必ず起きる」が前提です。

2022年8〜9月、中国四川省では干ばつと熱波により水力発電が制限され、自動車や半導体産業の工場が閉鎖に追い込まれました。これはほんの一例ですが、毎年どこかの地域で異常気象が発生します。
そして、複数の地域で同時に問題が発生すれば、応援できる余力はありません。代替ルートも機能しません。すべてのルートが影響を受けている状況では、迂回先がないからです。

ある国で物流が止まると、別の国でも影響が出ます。サプライチェーンは世界中でつながっており、一箇所の遅延が連鎖的に広がります。気候専門家の予測では、今世紀半ばまでに気候変動による世界のサプライチェーン混乱は、最大25兆ドルの純損失をもたらす可能性があるとのことです。

従来のトラック運用では対応できない理由

従来のトラック運用には、明確な前提がありました。走り続ける、遅れない、止まらない。この3つです。

この前提は効率を最大化するために生まれました。ジャストインタイムで在庫を減らし、配送回数を増やし、余剰時間を削りました。その結果、物流コストは下がり、スピードは上がりました。

しかし、判断がドライバー個人に集中する構造が生まれました。行くべきか、戻るべきか。天候が悪化する中、この重大な決断を現場で一人で下さなければなりません。

本部は「安全第一で」と言いますが、配送スケジュールは変更されません。顧客は荷物の到着を待っています。ドライバーは両方の要求の間で板挟みになり、結果として「行く」という選択をせざるを得ません。

無理な運行は効率を下げます。渋滞に巻き込まれ、迂回を繰り返し、燃料を余計に消費します。結果としてCO2排出量も増え、ドライバーの疲労も蓄積します。
問題は物流の設計思想そのものにあります。「止まらないこと」を前提にした物流は、「止まらざるを得ない状況」に対応できません。これは経営リスクの管理の問題です。

気候変動時代に求められる、大型トラック運用の新基準
異常気象が「前提」となるこれからの時代、大型トラックの役割は単なる運び手から、現場の状況を正しく伝える「センサー」へと進化します。それに伴い、運用のルールも次の3つの基準へアップデートしていく必要があります。

1判断する

行くか、戻るか、止まるか。この判断を、勘や根性ではなく、ルールと仕組みで下す体制が必要です。

天候データ、道路状況、車両の位置。これらの情報をもとに、走行を続けるべきかを組織として決めます。「積雪が10センチを超えたら運行を中止する」「道路冠水の情報が入ったら最寄りの安全な場所で待機する」といった明確な基準があれば、現場の負担は減ります。

判断は早いほど良い結果を生みます。危険が目の前に迫ってから引き返すのではなく、予測の段階で動きを変える。そのためには情報が現場に届き、本部と現場が迅速にやり取りできる環境が不可欠です。

2共有する

現場の状況が、管理側、配送計画、取引先にすぐ伝わる環境が重要です。

情報が遅れるほど、無理が出ます。しかし状況が共有されていれば、関係者全員が現実を理解できます。「道路が冠水しているため、2時間遅れます」という情報が即座に届けば、顧客も納得でき、代替手段を検討する時間も生まれます。

3無理をしない

止まる判断が評価される文化が必要です。走らないことが、結果的に全体を守ります。これは車両資産へのダメージ回避と、配送網の早期復旧のための経営判断です。

無理に走行を続ければ、事故のリスクが高まります。車両が損傷すれば修理に時間がかかり、代替車両の確保コスト、保険料の上昇、稼働率の低下を引き起こします。

適切なタイミングで止まる判断をすれば、被害を最小限に抑えられます。天候が回復すれば、すぐに運行を再開できます。これが配送網のレジリエンス、つまり早期復旧能力です。

運用を支える「3つの進化」:技術・仕組み・意識

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「運用の新基準」を実現するために、大型トラックを取り巻く環境は「技術・運用・考え方」の3つの側面で進化を遂げています。
技術の進化

トラックの位置、周囲の天候、車両の状態がリアルタイムで可視化され、共有される技術が広がっており、リアルタイム気象データと運行管理システムの連携、車両センサーからのデータ収集が統合されつつあります。
結果、危険が迫っている車両に対して、「30分後に豪雨が予想されるため、最寄りのサービスエリアで待機してください」といった具体的な指示が届く体制が整えられています。

運用の進化

「どの気象条件なら運行を中止するか」「どのタイミングで引き返すか」といった判断基準を、経験則ではなくデータに基づいて事前に定める企業が増えています。この「決めたルール」を現場で確実に実行するために、最新のデジタル技術が活用されています。

デジタルツインと呼ばれるシミュレーション技術を使えば、「もし大雪が発生したら」「もし洪水でルートが封鎖されたら」といった仮想シナリオを事前に検証できます。実際に問題が起きる前に最適な対応策を準備できます。

こうした「予測に基づく運用」の変化は、大規模プロジェクトで特に顕著です。例えば、1日あたり300〜1,000件以上の配送が集中する「AIデータセンター建設」の現場では、事前に設定された配送時間枠や、荷物を一時的に別の場所で管理する「段階的保管(オフサイト保管)」といった緻密な運用が行われています。

考え方の進化

最も大きな変化は考え方です。「走り続ける」から「守りながら運ぶ」へ。この転換が世界各地で進んでいます。

効率だけを追求する時代は終わりつつあります。速く届けることよりも、確実に届けること。無理をして走るよりも、適切に止まって再開すること。こうした価値観の変化が現場に浸透し始めています。

大型トラックは、単に荷物を運ぶ道具ではなくなりました。判断し、情報を発信し、時には止まることで全体を守る存在へと進化しています。

止まる勇気が、物流の未来を守る

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気候変動は一過性の問題ではありません。物流は今、何があっても止まらない「安定稼働」から、リスクを前提に被害を最小限に抑える「耐久稼働」へと移行しています。効率だけを追求する時代は終わり、壊れにくく、止まっても早く再開できる仕組みが求められています。

トラックの役割もまた「走る機械」から「判断し、情報を共有する存在」へ変わりつつあります。「判断する」「共有する」「無理をしない」 。 この3つを現場任せにせず、ルールとテクノロジーで支える体制を作ること。それが、激甚化する気象リスクから、大切な資産とサプライチェーンを守る大切なポイントとなります 。

あなたの物流は、異常気象の中で「止める判断」ができるでしょうか。走り続けることではなく、適切に止まり、確実に再開すること。この問いに向き合うことが、これからの物流を作る第一歩となります。